年金分割と清算条項

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離婚した妻からの相談例

 私は夫と離婚をしましたが、離婚後に年金分割という制度があることを知りました。そこで、私は元夫に年金分割をしたいと求めたのですが、元夫からは「離婚の際に、協議書に定めるほかに債権債務がない条項(いわゆる清算条項)を入れた離婚協議書を作成した以上、年金分割にも応じる必要はない」と言って全く話合いに応じてくれません。
 私は元夫に年金分割をすることを求めることはできないのでしょうか。

弁護士による解説

1 年金分割と清算条項の関係

 離婚をする際、財産分与や慰謝料などの取決め内容を協議書において整理し、協議書の最後に「当事者双方は、本協議書に定めるもののほか、何らの債権債務がないことを相互に確認し、互いに金銭その他の請求をしない。」といったいわゆる「清算条項」を入れることが一般的です。これにより、離婚に伴う金銭問題等の蒸し返しを防ぐ目的があります。
 それでは、この清算条項により、年金分割をすることを求めることまでもできなくなってしまうのでしょうか。結論から申し上げますと、このような清算条項があったからといって、年金分割を請求することは妨げられません。年金分割の請求権は厚生労働大臣等に対する公法上の請求権であり、当事者の一方から他方に対する請求権ではありませんので、清算条項があったとしても年金分割を求めることができるのです。

2 年金分割をしないという合意が可能か

 それでは、積極的に「年金分割をしない」という合意を当事者間ですることは可能でしょうか。
 この点、年金分割において請求すべき按分割合を定めるための調停や審判の申立てをしない旨を明確に合意をすることは可能とされています。つまり、年金分割を請求するためには、その前提として請求すべき按分割合を合意や審判で定める必要がありますが、その前提となる手続を取らない旨の合意をすること自体は可能であり、その結果、請求すべき按分割合が定まらないために年金分割請求ができないという形になります(なお、当事者は協議により年金分割をしないとの合意ができ、その合意は公序良俗に反するなどの特別な事情がない限り有効とした審判例もあります。)。
 もっとも、これは請求すべき按分割合についての当事者間の合意を前提とする合意分割の話となります。当事者間の合意が不要であるいわゆる3号分割については、年金分割をしないという合意があっても可能となりますので注意が必要です。

3 本ケースの場合

 本ケースにおいては、具体的に年金分割をしないという合意はなく、単純な「清算条項」があるのみであると考えられますので、元妻は元夫に対して、年金分割をすることを求めることが可能です(元夫が協議に応じない場合には、家庭裁判所に対して、調停や審判の申立てを行うことになります。)。

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